対人恐怖症とは
対人恐怖症とは、ある特定の状況や人前で何かをする時に、緊張感が高まって不安や恐怖を感じ、次第にそのような場面を避けるようになる病気です。
他人との交流や人前でのふるまいに強い不安や緊張を感じ、日常生活に支障が出ている状態のことです。
対人恐怖症は社交不安障害
対人恐怖症はよく知られた概念ですが、医学上の正式な疾患名ではありません。
近年では、対人恐怖症は不安症の一種である「社交不安障害」に含まれると考えられています。
このため、対人関係において恐怖や不安を感じる人が病院で受診をすると、「対人恐怖症」ではなく「社交不安障害」との診断名がつけられることが通常です。
しかし対人恐怖症と社交不安症は、厳密にはイコールではありません。
医師によっても対人恐怖症と社交不安症との位置づけに対する考え方は異なり、統一された見解が存在しないのが現状です。
こちらの記事では、日頃耳にすることの多い「対人恐怖症」という言葉を使って解説をしています。
対人恐怖症は他の国でも存在する
従来から、対人恐怖症は日本人だけの症状であるとされてきたが、最近の研究では、対人恐怖症に似た症状はアメリカなどの他の国にも存在することがわかっています。
対人恐怖症は辛い
緊張は誰にでもあることですが、たいていは経験を積むにつれて自然に振る舞えるようになります。
しかし、対人恐怖症の場合は自分でも不合理だと思っているにもかかわらず、それがどんどんエスカレートし、日常生活に支障をきたしてしまいます。
現在、日本ではこの病気で悩んでいる人が約300万人以上いるといわれています。
発症年齢の多くは10代半ばから20代前半で、病気という認識がなく、長い間1人で悩んでいるケースが少なくありません。
社会不安障害は、放っておくとうつ病などの引き金になる恐れもあるので、思い当たることがあれば早めに心療内科や精神科を受診しましょう。
対人恐怖症は、治療が可能な疾患でもあります。
症状を放置せずに適切な治療を受けることで、症状の改善が期待できるといえるでしょう。
対人恐怖症の治療先
対人恐怖症の治療は、精神神経科や心療内科で受けることができます。
精神神経科は、心の病気を扱う診療科です。
心療内科は、心の問題が関係して体の症状があらわれていると考えられる疾患を扱います。
対人恐怖症の治療
対人恐怖症の治療は、「薬物療法」と「認知行動療法」を中心に行われます。
両方を併用すると治療効果が高いといわれています。
薬物療法
社会不安障害の治療には、主にSSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害薬)を使用します。SSRIは第3世代の抗うつ薬で、脳内のセロトニンのバランスを整えます。
服用後、効果が現れるまでには個人差があり、約2週間から8週間で徐々に症状が緩和されます。
認知行動療法
不安や恐怖にとらわれている思考パターンを変えたり、緊張感をやわらげたりすることで、回避行動を軽減する精神療法です。
私個人的には、今後の未来に渡って認知行動療法の進歩が対人恐怖症で辛く苦しい思いをしている人たちを救う要になるのではないかと思っています。
対人恐怖症のさまざまな症状例
- 視線恐怖症…他人や自分の視線について不安恐怖を感じる。
- 脇見恐怖症…視界に入る人や物を見てしまうことに不安恐怖を感じる。
- 赤面恐怖症・・・ 人前に出ると緊張感が高まり、顔が赤くなる。
- 発汗恐怖症・・・ 緊張により発汗し、ハンカチなどを持たないと落ち着かない。
- 対人恐怖症・・・ 周囲の視線が気になり、恐怖や震え、めまいなどを感じる。自分に対する他人の評価に強い不安を感じる。
- 書痙・・・・・・・・・ 人前で文字を書こうとすると、緊張と不安により手が震える。
- 場面恐怖症・・・ 緊張して声が震えるなど、人前でうまく発言できない。
- その他
対人恐怖症の原因
発症の原因はまだはっきりとは解明されていませんが、脳内の神経伝達物質であるセロトニンなどのバランスが乱れて、不安を誘発しているとの説や、恐怖や不安に関与する脳内の扁桃体が過剰に反応しているのではないかとの説があります。
また、人前で恥ずかしい思いをした経験が引き金になったという報告もあります。
パニック障害の発作との違い
対人恐怖症の人が不安を感じた時に起こる身体症状は、不安障害の一種である「パニック障害」の発作と似ています。
どちらの疾患も、人前で症状や発作が起こることを恐れるあまり、人前に出る状況を回避する点が共通しています。
しかし、対人恐怖症の症状とパニック症の発作は、起こり方に以下のような違いがあります。
・パニック症の発作:特に理由なく突然起こる
・対人恐怖症の症状:他人からの視線や評価を恐れるときに起こる
対人恐怖症は治るのか?
対人恐怖症は、放置していても改善する可能性は低いとされています。
海馬や扁桃体に記憶された緊張や失敗の記憶から「次も失敗するかもしれない」という「予期不安」が形成され、不安や緊張を感じそうな状況を回避するようになるからです。
回避行動が習慣になると、その状況に対する不安がより強くなるという悪循環に陥りがちです。
対人恐怖症の人が仕事で悩む場面は
採用面接
面接官の前で緊張が高まったり、身体症状があらわれたりした場合、自分自身について思うようにアピールすることができないなど、面接が不本意な結果に終わってしまうことがあります。
かかってきた電話をとる
オフィスで電話をとったり、かけたりする場合、周囲にいる上司や同僚に自分の受け答えを聞かれていることに緊張して、声が震えたり、スムーズな受け答えができないことがあります。
会議への出席
ひとりで作業しているときは問題なくても、全員の顔が見えるように着席する会議への出席では不安や緊張が高まります。
また、会議で発表する必要があるなど、他人から注目を集める場面では緊張し、声や手足が震えたり、赤面や発汗が起こることがあります。
治療により仕事上の困難は軽減できる
対人恐怖症の人が仕事上で直面する困難は、面接や会議など、緊張することがあらかじめ予期できる場合もあります。
このような時には、前もって抗不安薬やβ遮断薬を服用しておくことで、身体症状を抑えることができます。
対人恐怖症の症状を軽減するための日常生活での工夫
治療以外にも、日常生活において以下のような工夫をおこなうことも、対人恐怖症の症状の軽減に役立ちます。
規則正しい生活
規則正しい生活は、対人恐怖症の症状改善のためにしたほうがいい基本的なことです。
十分な睡眠
十分な睡眠は、対人恐怖症の身体症状の軽減に役立ちます。
質のよい睡眠時は、交感神経を優位に導くアドレナリンやノルアドレナリンの分泌量が低下し、リラックス状態になります。
適度な運動
これまでの研究により、社交不安症を含む不安障害の改善には、適度な運動を習慣的におこなうことが効果があることがわかっています。
早足でのウォーキングや水泳などの有酸素運動の効果が期待できるとされています。
最後に
この記事が、対人恐怖症で苦しみのたうち回る程の苦痛を感じている人たちへのメッセージになれたら幸いです。
辛いのは、貴方一人では決してありません。
以上。